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闇遊戯が「罰ゲーム!」から「ファラオ」になったことで変わった5つのこと 〜前編〜【遊戯王 漫画 原作 DM 考察 感想】

 

 

 1.成長の意味。人格「統合」から、「分離と自立」の物語へ

 

悪を裁く正義の番人「もう一人の遊戯」

遊戯王の原作マンガが連載を開始した当初、本作はカードゲームだけではない多種多様なゲームを扱う作品でした。
言うなればカイジ『必殺仕事人』を足してオカルト要素を融合させたヒーローマンガです。

主人公の武藤遊戯はゲームが好きな大人しい少年ですが、仲間や家族に危害が及ぶと人格が豹変します。そして悪人を相手に危険なゲームをもちかけてボコボコに負かし、敗者に恐ろしい「罰ゲーム」を科して廃人にしてしまう。いわば勧善懲悪のダークヒーローだったのです。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

ちょっとした賭け事から本格ボードゲームまで、どんなゲームも遊戯に敵う者はいない。彼はゲームの王様だ!
遊戯王というタイトルは元々このような意味合いからきています。

連載当初の本作は「普段は気弱な主人公が悪人の前で豹変して強くなる」ことにカタルシスを覚えさせる構成になっていました。これがあるから普段のやさしい遊戯がマンガとして映え、普段の遊戯が気弱だからこそ豹変した時のギャップが際立つ。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

つまり、表の遊戯も、もう一人の遊戯(闇遊戯)も、どちらも正真正銘、武藤遊戯でなければこの話しは成り立たない。
月野うさぎセーラームーン(プリンセス・セレニティ)が実は全く関係ない別人です、では「美少女戦士セーラームーン」(©︎武内直子)という作品は意味がないのです。

ここで重要なのは、当初、主人公の遊戯は「二つの心を持つ」一人の少年という設定だったことです。

これは厳密な意味での二重人格とは異なります。「1つの体に2人分の人格が存在している」のではなく、「あの人って性格にうらオモテあるよね」みたいな意味での俗にいう二重人格、本人ですら知らない自分の「もう一つの心」がものすごく強調され擬人化されて内に秘められているような状態。一般的に多重人格者はそれぞれの人格が別人を自称しますが、表遊戯も闇遊戯も自分を「武藤遊戯」と思っており、その様に振る舞います。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

闇遊戯はごく稀なケースを除いて、表遊戯(自分)を守るために現れるわけではありません。この時点での闇遊戯は表遊戯の内なる強さそのものであり、仲間や家族に危害が及ぶと「よくもオレの(ボクの)大切な人を傷つけたな!」と言って出てくるのです。これは主人公が悪人に報復することの正当性を担保し、ダークヒーローものとして作品を成立させるためにも重要なことです。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社


「もう一つの心」を受け入れる

最初のころ、周囲の人々は遊戯の「もう一つの心」のことを知らないので「なんか雰囲気が変わったな」などと思いながら接するのですが、表遊戯はだんだんと自分の中の「もう一つの心」の存在に気がつくにつれ『こんなボクを知られたら皆んな離れていってしまうんじゃないか……』と不安を覚えます。そしてDETH-T編の終盤でその不安はピークに。

ここで注目すべきは、表の遊戯はこれを自分自身の問題として苦悩していたことです。自分が何か悪霊に取り憑かれているとか、千年パズルに宿った悪の人格に体を乗っ取られているとかではなく、あくまで自分自身の心の問題としてです。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

これは「普段は見せない自分の一面を知っても、他人は自分を受け入れてくれるのか」という普遍的なテーマに通じます。普段は閉ざされたその人の一面を「もう一つの心」として擬人化することで、少年マンガらしい熱く爽やかな表現に成功しています。

DETH-T編を乗り越えて表の遊戯は自分自身と向き合い、「もう一人のボク」を受け入れます。この時はじめて仲間たちは表の遊戯がもう一人の遊戯へと変貌する瞬間を目撃し、それでも「遊戯は遊戯」として主人公を応援するのです。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社


作品の結末を分けた、大きな方向転換

千年パズルの闇の力について、ストーリー序盤では深くは触れられず、闇遊戯は「千年パズルの力によって武藤遊戯の中から目覚めた、もう一人の遊戯」として描かれていました。

千年パズルについて踏み込んだ内容が初めて描かれたのは、エジプト発掘展を舞台としたVSシャーディー戦です。ここではぼんやりとした象徴的な意味合いながら、千年パズルの真の力と物語の結末の一端が示唆されています。

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この少年には表と裏の人格が存在しているが少年はそれに気づいてはいない…

表と裏がひとつになった時こそ「千年パズル」の真の力が目覚める時なのだ!

(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

この表と裏がひとつになるという表現を、「表遊戯と闇遊戯が友情を育んで "相棒" になる」とか抽象的に解釈することはいくらでもできます。しかしそれは既に描かれた結末を知っているからこそ出てくる逆算的な発想です。主人公の成長物語としての本作は、当初は異なる方向性が提示されていました。

つまり、分裂してしまった表の遊戯ともう一人の遊戯(闇遊戯)が一つになり、表でも裏でもないただの遊戯になることこそが物語のゴールだった可能性が非常に高いです。 (最終的には映画DSODみたいな見た目と雰囲気になったのか…?)

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

上の引用画像は王国編の序盤あたり、80話目でのワンシーンです。もしも最初から「表遊戯と闇遊戯がそれぞれ別人として自立し、別れる」ことを想定して描かれていたのなら、このような描写は絶対に出てこないはずです。だって二人の遊戯が自立しなければならないなら、それ全部が遊戯で、そのままでいいわけがないですよね。この時点では杏子はまだ闇遊戯の正体を知らないから…と解釈すれば確かにつじつまは合いますが、それはあくまで  " 後付け "  的な解釈です。このシーンは杏子が遊戯に語りかけると同時に読者への提示でもあるわけですから、少なくとも「それ全部が遊戯」という台詞だけは変更されていなければマンガのストーリーとしておかしい。

つまり、本作は少なくとも王国編の序盤くらいまでの時点では、現在とは別な結末が想定されていたということ。人格の「統合」です。

これは闇遊戯がもともと表遊戯の心の中から出てきた存在で、千年パズルの力はあくまできっかけに過ぎない、どちらも正真正銘「武藤遊戯であることが前提の話しです。

自分で自分がよく分からない、恐ろしい敵に立ち向かうためには「強い自分」が必要、みんなと仲良くいるには「やさしい自分」のままでいい。そういったバラバラのパズルのピースのような状態にある未熟な心と向き合い、組み上げて、「自分」という1つの完成形に向かうための物語。まだ誰も完成を見たことがないパズルの真の姿こそが本当の「武藤遊戯」です。

しかしご存知の通り、ストーリーが進んでいく途中で闇遊戯の設定は大幅に変更され、彼は武藤遊戯とはもともと別の存在である、古代エジプトのファラオの魂」であることが明らかになります。下の引用画像はまさに、杏子の心情を借りてこれまでの設定と今後の変更点を読者に説明しているシーンと言えるでしょう。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

そこで提示された、また別の方向性。それが本作の最終話に描かれた二人の遊戯の結末、「他者との分離」そして「自立」です。

自分と他人の境界があいまいで自他を切り離せない、他人の心が分からなくて不安になる、自分にはない他人の良さを羨む、他人と離れたくない、そういう未熟な状態から、「自分は自分」「他人がどんな道を選ぼうと、それは他人の選択」という、自立した状態になることがゴール。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

これはあくまで、闇遊戯はもともと外からやってきて武藤遊戯の心の中に間借りしている別個な存在だというのが前提です。

「統合」と「自立」。これらは途中でキャラクターの設定が変更されストーリーの方向性が変わったものであり、どちらの状態が上とか下とか、良いとか悪いの話しではありません。
主人公がアイデンティティを確立する成長物語であることに変わりはないのです。

(余談:本作がカードゲーム中心の長編をやり始めると必然的に、もともと敵とのゲームパート担当だった闇遊戯が出ずっぱりになります。何話もかけて1つのデュエルを描くので漫画の構成上、仕方ないのですが、一話完結のスタイルが崩れて表遊戯の出番が激減したことについて原作者自身は「表遊戯が闇遊戯の影に隠れている」と捉えていたようです(構成が悪いのであって、これを問題視するならブラック・マジシャンとかも弟子の影にがっつり隠れていることになるのですが)。表遊戯はもっと前に出なきゃいかん!と原作者が考えたことから、表遊戯が闇遊戯を超える→自立するという結末に至ったことが、その後の本編の流れや文庫版のあとがきで書かれた原作者のコメントなどから推察されます。)

 

2.ヒロイン杏子との恋の行方

もともと、表遊戯は幼馴染みの杏子のことが好きです。
一方、杏子が恋しているのは闇遊戯です。バーガーワールドで凶悪犯の人質にされてしまった杏子は、自分を助けてくれた名前も姿も分からない人に恋をします。それが闇遊戯、千年パズルの力によって遊戯の心の中から目覚めた「もう一人の遊戯」でした。

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 (©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

最初の時点では杏子が闇遊戯に恋していること自体べつに問題なかったわけです。だって表遊戯も闇遊戯もどっちも「遊戯」だから。どうも最近杏子には好きな人ができたらしい…遊戯は当然ショックですよね。しかし、杏子が恋しているのは実は遊戯なのです。この絶妙なすれ違いの両片思いが良かった。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

この杏子の恋心の揺れ動きは、特に異性として意識したこともなかった幼馴染みの意外な一面を知ったことで一気に恋に落ちるという、ラブコメの鉄板とも捉えることができます。

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

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(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

杏子の想いが闇遊戯の方に偏っていること自体が、ストーリーの伏線のようになっていました。表と裏が一つになる過程で、杏子は遊戯の一面のみを見るのではなくその『二面性』を含めて『遊戯は遊戯』としてあらためて好きになり、晴れて結ばれる。当初、原作者はそんなような展開を意識していたのではないでしょうか。

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『いいの!遊戯は遊戯じゃない!それは最初は…でも……表とか…もう一人とかなんて関係ないんだよ!それ全部が遊戯なんじゃない!』 (©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

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『決闘者って………みんな二面性を持ってるのかな………』(©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

しかし、実は表遊戯と闇遊戯はまったくの別人で、魂から別だという話しになってからは事情が変わってきます。表遊戯と杏子と闇遊戯は恋の三角ということになってしまい、大分めんどくさいことになりました。

「闘いの儀」が行われる前夜に杏子はクルーズ船の遊戯の部屋を訪れましたが、出迎えたのは表遊戯だった。さすがに「最後にもう一人の遊戯と話しがしたいから変わって(今私が話したいのはあなたじゃない)」などとは言えず、「本田のお腹の薬を貰いにきた」と嘘までついて、杏子はそのまま部屋を出ます。とても健気です。

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 (©︎高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社

アニメ版では少し異なるのですが、杏子は「闘いの儀」の最中もずっと闇遊戯(アテム)を気にかけています。(原作者的にバランスをとりたかったのか、城之内はどちらかというと表遊戯の方を応援している)

このこじれた関係を最後まで上手く方向修正することができなかった結果、杏子は闇遊戯(アテム)に恋心を打ち明けることさえできず、原作本編は終了してしまいました。

★後編に続く★

rootm.hatenablog.com

 

 

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